お名前が変わるタイミングってどのようなときでしょうか。
民法上では主に、
- 婚姻
- 養子縁組
- 離婚
戸籍法上では、
- やむを得ない事由によって氏を変更しようとする場合
となっています。
一方、婚姻時の改姓を義務としないこととする「選択的夫婦別姓制度」については法務省で平成3年から検討がなされているところですが既に30年余経過しています。
身近なところでは入籍後に職場で旧姓のまま在職したい場合やその手続き、それによって生じるメリット、デメリットについて論じられることがあります。
今回は「入籍後旧姓のままなら職場での手続きは必要?メリットデメリットはある?」と題してお届けします。
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入籍後旧姓のままなら職場での手続きは必要?
入籍前から職場内でも名前で呼ばれていた場合には、呼称に変化はないのであまり表面だって問題はないように見えます。
しかし、実際には給与の振込先名義との不一致や健康保険証などのお名前との齟齬も出てきます。
内閣府は「女性活躍の視点に立った制度の整備として、婚姻等により戸籍上の氏が変わった場合であっても、希望すれば職場等で旧姓を使い続けられるようにするための取り組みを推進」しています。
そもそも職場では旧姓使用が認められるのでしょうか。
旧姓のままでは認められない職場もある?
現在の民法においては結婚に際し、男性又は女性のいずれかに必ず氏(姓)を改めなければなりません。
その割合は、平成7年には97.4%もの夫婦が夫の姓にしていたものに対し、令和元年には95.5%と微減しています。
個人的には、少子化も影響しているのではと思います。
女性側にあっても一人娘であったりして家柄を絶やせない事情もあるのではないでしょうか。
さて、戸籍上は、婚姻後に相手方の姓になった場合に職場で旧姓使用を続けることは可能なのか見ていきます。
企業
2018年に労務行政研究所が上場企業及び上場企業に匹敵する非上場企業440社を対象に行った調査によると、旧姓使用を認めている企業は全体の67.5%で、同研究所が2001年に実施した調査から2倍以上に増加しています。
女性の社会進出は年々進み、キャリアを重ねたころに名前が変わることで不利益も生じかねません。
これまでの実績とそれを成しえた本人とが直線で結ばれなくなる可能性があります。
これまでに使用していたメールアドレスに名前が含まれている場合など、「旧姓がこれで、結婚(離婚)して今はこれです」などの情報まで提供せざるを得ないかもしれません。
論文で成果発表をしている研究者などは、本人による発表なのか一見してわからなくなり、見た目に過去の業績が取りこぼされてしまう可能性もあります。
とはいえ、給与台帳や源泉徴収、社会保険などの公的な手続きは基本戸籍名で行わなければなりません。
大手の企業でも3割ほどは旧姓使用を認めていません。
社会全体となるとその割合は、もっと大きいものになるのではないでしょうか。
国家公務員
平成29年11月14日付け「国の行政機関における職員の旧姓使用に係る申合せについて」という公文書内に次のように記載されています。
「法令上又は実務上特段の支障が生じるものを除き、対外的な文書等を含め旧姓使用を認める。」
これにより、戸籍謄本で根拠確認→当該職員の戸籍上の氏(姓)、使用する旧姓、当該旧姓を職員等として使用していた事実、旧姓使用の開始日その他必要な事項を人事記録等に記載、管理という手順を経て旧姓使用が可能となっています。
地方公務員
平成29年11月14日付け「国の行政機関における職員の旧姓使用に係る申合せについて」において、次のように記載されています。
各地方公共団体においても、対外的な文書等を含め旧姓使用を可能とするなど、職員が旧姓を使用しやすい職場環境づくりに向けたより一層の取組をお願いする。
自治体等によりさまざまな状態のようです。
ネットでも「(自治体名)職員+旧姓使用」で検索するとその可否についての情報が載っています。
これから使用可能なところが増えていくでしょう。
入籍後旧姓のままならメリットデメリットはある?
旧姓使用することによって、あらゆる場面でメリットやデメリットはあるのでしょうか。
また、使用できないこともあるのでしょうか。
職場によっては提示する可能性のある証明の類について、旧姓併記の可否について調べてみました。
運転免許証
戸籍名と旧姓の併記可能となっています。
下記のように案内がされています。
以下のいずれかの書類をお持ちの上、お近くの運転免許センター等にお越しください。
○ 旧姓が記載された住民票の写し(「旧氏」欄に旧姓が記載されたものに限る。)
○ 旧姓が記載されたマイナンバーカード
運転免許証は、身分証明としても使えますから何かと便利ですね。
併記するか否かは、ご自分の必要に応じて選択可能です。
健康保険証
2022年9月からは保険証に戸籍名と旧姓を併記することができるようになりました。
保険証の表面に記載されている戸籍名の次に、括弧書きで旧姓が表記されます。
保険証の裏面の備考欄には「氏名欄の括弧内は旧姓」などと記載されます。
こちらも併記するか否かは、ご自分の必要に応じて選択可能です。
旧姓による口座開設
金融庁が2022年9月6日に「旧姓による預金口座開設に係るアンケート結果概要」を公表しました。
調査対象は、銀行125行、信用金庫254金庫、信用組合145組合、労働金庫13金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫となっています。
それによると、「旧姓による新規口座開設及び既存口座の旧姓維持の双方に対応している」と回答した割合は次のとおりとなっています。
- 銀行 62.4%
- 信用金庫 54.3%
- 信用組合 11.0%
まだまだ多くの金融機関において、旧姓使用が不可となっています。
ちなみに使用不可としている理由で一番多くあがっていたのは「マネーロンダリング及びテロ資金供与防止対応に懸念が生じるため」とのことです。
パスポート
外務省より「これまで厳格であったパスポートの旧姓併記については、令和3年4月1日より次のように緩和する」との発表がありました。
旅券に旧姓の併記を希望する場合には、戸籍謄本、旧姓が記載された住民票の写し又はマイナンバーカードのいずれかで旧姓を確認できれば、旧姓の併記を認めることとします。
こちらも希望により併記可能となっています。
住民票・マイナンバーカード
平成31年11月15日より住民票・マイナンバーカードともに併記できるようになっています。
戸籍謄本を用意し、お住まいの市区町村で手続きができます。
各種の契約や銀行口座の名義に旧姓が使われる場合、その証明として使用可能ですから便利です。
国家資格
次の国家資格では現行では旧姓使用は認められていませんが、システム改修等により順次使用可能とする動きがあります。
- 受胎調節実地指導員
- 海技士(航海)
- 海技士(機関)
- 海技士(通信)
- 海技士(電子通信)
- 小型船舶操縦士
全体的には、ほとんどの国家資格で旧姓使用が認められてきています。
完全に認められるのも時間の問題ではないでしょうか。
雇用保険の氏名
以前は雇用保険の氏名に変更があった場合は被保険者氏名変更届をハローワークに速やかに提出する必要がありましたが、2020年1月に廃止されました。
これによって氏名変更のみの手続きは無くなり、各種申請をするときに申請書にある氏名変更記載欄に変更後の氏名を記載すれば良いこととなりました。
まとめ
時代は刻々と変わっていき、当たり前とされていたことにも変化の波が押し寄せてきています。
入籍後に旧姓のまま在職できるのか、職場での手続きはどうなっているのか、メリットはあるのか?はたまたデメリットはあるのか?まだまだ発展途上ではありますが、選択可能な将来はすぐそこまで来ています。
あと数年では、本人の希望どおりにあらゆる場面で選択が可能となるのではないでしょうか。
今回は「入籍後旧姓のままなら職場での手続きは必要?メリットデメリットはある?」と題してお届けしました。